自虐の詩 ・2007年10月27日公開・
大阪・通天閣のふもと。
ひなびたアパート「パンション飛田」では、今日もいつもの音は響く。
イサオがちゃぶ台をひっくり返す音だ。幸江が作った食事が四方八方に散らばる。イサオは無口な乱暴者で酒飲み、その上ギャンブルに明け暮れている。
幸江の不運と貧乏は今に始まったことではない。宮城県、気仙沼で生まれた幸江は。物心つく前に母親が家出し、男手一つで幸江を育てた父・家康は、飲んだくれで借金まみれだった。生活は中学生の幸江の新聞配達や内職にかかっていた。
「幸せになれになれますように」神社でお参りするのが日課の幸江に、ある日、事件が起こる。家康が愛人と新婚旅行に行くために銀行強盗をして捕まってしまったのだ。パンツ一丁で連行される父の姿にボーゼンとする幸江。
さて、今日も今日とて、イサオのちゃぶ台返しは続く。折角作ったトンカツも、無理して大枚はたいて買った寿司も全てひっくり返された。しかし、見かねた隣に住む後家のおばちゃん・小春に別離を薦められようとも、「あんな奴と別れて、俺と一緒になろう」と、幸江は働く食堂・あさひ屋のマスターにしつこくプロポーズされようとも、幸江はイサオと一緒にいられるだけで幸せだった。
そんな時、ムショ帰りの家康が幸江の前に現れる。ソープランドであさひ屋のマスターと「ユキエ」という名のソープ嬢を取り合った縁で、あさひ屋の二階に居候する家康。ここぞとばかりに、父親に取り入ろうとするマスター。それでも何があろうと、幸江はイサオに尽くし続けた。
ある日、イサオは働きに出ることを決意する。心づくしの愛妻弁当を持って工場現場に向かったイサオだったが、昔のヤクザ仲間に絡まれ、暴力沙汰を起こしてしまう。これを機に、かつて世話になった組長から戻ってこないかと誘われ、イサオの心は揺れる。
再び、イサオのパチンコに明け暮れる日々が始まった。イサオが大フィーバーを出した同日、幸江は医者からおめでた3ヶ月であることを告げられる。喜んでイサオに報告する幸江だったが、それを聞いたイサオは黙って幸江の元から去って行った。「何かを得ると、必ず何か失うものがある」
数日後、身重の体で働き続ける幸江は、歩道橋から滑り落ちる。生死の間を彷徨う幸江の頭の仲では、過ぎ去った出来事が走馬灯のように駆け巡っていた。
幸せじゃなかった少女時代。独りぼっちの幸江をただ支えてくれたのは、同級生の熊本さんだった。彼女も幸江を同じように靴下は破け、教材費も払えず、学校の備品をこっそり持ち帰るような貧乏育ち。いじめられても堂々としている熊本さんといつしか親友となり、二人は誓いを立てる。
「近くにいても、遠くにいても、あなたのことは忘れない。嬉しい時も、悲しい時も、あなたと友達で
いる。ずっと友達でいる!‥‥」
そして中学卒業と同時に上京した幸江。その後は絵に描いたような転落人生が待っていた。夢も希望もなくなった幸江の前に現れたのが、ヤクザのイサオだった。子供の頃から自分を蔑み、愛を求めていた彼女を初めて心から愛してくれた男、それがイサオだったのだ。
そして目を開けた時、そこに見たものは‥‥。
監督:堤幸彦
脚本:関えり香、里中静流
原作:業田良家
出演:中谷美紀、阿部寛、遠藤憲一、カルーセル麻紀、竜雷太、名取裕子、西田敏行