ぐるりのこと。 ・2008年06月07日公開・
“ぐるりのこと”
――自分の身の周りのこと。または、自分をとりまく様々な環境のこと。
1993年7月。ふたりの部屋のカレンダーには「×」の書き込み。妻・翔子(木村多江)が決めた週に3回の夫婦の「する日」の印だ。しかし、その日に限って、靴修理屋で働く夫・カナオ(リリー・フランキー)の帰宅は遅い。女にだらしないカナオが遊び歩いているのでは? 彼の手の甲をぺろりと舐め、浮気かどうかチェックする翔子。カナオは先輩の紹介で、新しく法廷画家の仕事を引き受けてきたところだった。「はあ!? 靴屋は? とにかく……決めたことやってから話そうか」苛立った様子で寝室へ消える翔子。カナオはぼやきながら、渋々寝室へ入っていく。
ふたりはどこにでもいるような夫婦。翔子は女性編集者として小さな出版社でバリバリ働いている。一方、カナオは法廷画家の仕事に戸惑いつつ、クセのある記者・安田(柄本明)や先輩画家らに囲まれ、次第に要領を掴んでいく。職を転々とするカナオを、翔子の母・波子(倍賞美津子)、兄・勝利(寺島進)とその妻・雅子(安藤玉恵)は好ましく思っていない。しかし、そんなカナオとの先行きに不安を感じながらも、小さな命を宿した翔子には喜びのほうが大きい。「お、動いた!」カナオと並んで歩く夜道で、翔子は小さくふくらんだお腹に手を触れる。カナオのシャツの背中をぎゅっと掴んで歩くその後姿には、幸せがあふれていた──。
1994年2月。ふたりの部屋に掛けられたカレンダーからは「×」の印が消えている。寝室の隅には子どもの位牌と飴玉が置かれていた。初めての子どもを亡くした悲しみから、翔子は少しずつ心を病んでいく。
法廷でカナオはさまざまな事件を目撃していた。1995年7月、テレビは地下鉄毒ガス事件の初公判を報じている。産婦人科で中絶手術を受ける翔子。すべてはひとりで決めたこと、カナオにも秘密である。しかし、その罪悪感が翔子をさらに追い詰めていく。
1997年10月、法廷画家の仕事もすっかり堂に入ってきたカナオ。翔子は仕事を辞め、心療内科に通院している。台風のある日、カナオが家へ急ぐと風雨が吹きこむ真っ暗な部屋で、翔子はびしょ濡れになってたたずんでいた。「わたし、子どもダメにした……」翔子は取り乱し、カナオを泣きながら何度も強く殴りつける。「どうして……どうして私と一緒にいるの?」そんな彼女をカナオはやさしく抱きとめる。「好きだから……一緒にいたいと思ってるよ」ふたりの間に固まっていた空気が溶け出していく──。
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監督:橋口亮輔
撮影:上野彰吾
照明:矢部一男
録音:小川武
美術:磯見俊裕
企画・制作:山上徹二郎
出演:木村多江/リリー・フランキー/倍賞美津子/柄本明/寺島進/安藤玉恵/寺田農/八嶋智人/ほか