ファクトリー・ガール ・2008年4月19日公開・
1965年、ニューヨーク。アンディ・ウォーホルがポップ・アートの旗手としてアンダーグランド・カルチャー・シーンに君臨していた時期、画家を目指し、ケンブリッジ美術学校を退学して1人の女の子がニューヨークにやってきた。彼女の名はイーディ・セジウィック。由緒ある名家で莫大な冨を築き、アメリカでは知らないものはいない“セジウィック家”の令嬢。友人の誘いでギャラリーのパーティに出かけたイーディは、アンディ・ウォーホルを紹介される。名家の令嬢ということだけでなく、人々を惹きつけてやまない美貌とセンスを持ったイーディは会場の人々の注目を集め、周囲には男性が取り巻いていた。そして、ウォーホルでさえも例外ではなく、一瞬にして心を奪われてしまった。
ニューヨークのカルチャーが凝縮されていた“ファクトリー”には多くのアーティスト、詩人、ミュージシャンたちが集まり、前衛的な実験映画が撮影され、後世に残る数々のアートが生み出されていた。ウォーホルのお気に入りとなったイーディはたちまちファクトリーの仲間入りを果たし、ウォーホルの映画のカメラテストを受ける。そして、サンタバーバラで育ち、パパのことをファジーと呼び、亡き兄のことをミンティと呼び、自分自身も精神病院に入っていたことをカメラに向って語った。未だに母親と暮らし、子供の頃は精神衰弱だったウォーホルとの距離が縮まるのに時間はかからなかった。長く美しい髪をピクシー・カットにし、お揃いの金髪に染め、ウォーホルと共にパーティに繰り出していた。2人はいつも一緒に出かけ、電話では他愛もないおしゃべりをし、お互いに欠かせない存在となり、イーディはファクトリーでも中心的存在になっていった。ウォーホルの才能を心から尊敬していた彼女は裕福な知人たちをファクトリーに呼んでは、作品を売る手助けもしていた。
いつもウォーホルのとなりにいる魅力的な女性をマスコミは放っておかなかった。イーディが主演したウォーホルの映画が上映されると同時にメディアの注目を集め“画家と社交界に咲く花”、“アンディ・ウォーホルのミューズ”ともてはやされた。数々のファッション雑誌が彼女を追いかけ、ヴォーグ誌は彼女と契約を結び、イーディの印象的なアイメイク、大きなイヤリング、黒いタイツなど、彼女のファッションスタイル全てが流行となった。もはやウォーホルだけではなく、時代のミューズとなった彼女をウォーホルは“スーパースター”と呼んだ。
しかし、そんなイーディを快く思わない厳格な両親は、ウォーホルに対しても批判的な態度を示すのだった。幼い頃から厳格なだけでなく異常な家庭環境で育ち精神的に不安定だったイーディは次第にドラッグと毎晩繰りひろげられるパーティに身を委ねていった。ある日、大学時代の親友だったシドがニューヨークにやって来た。彼はイーディをある人物と引き合わせるために連れ出す。彼こそが飛ぶ鳥を落とす勢いのロック・スター、ボブ・ディラン(映画の中ではビリーという名前)だった。セレブリティ同士の出会いの瞬間を捉えようと群がるマスコミのシャッター音とフラッシュに包まれながら、イーディの中に新しい感情が生まれていた…。
翌日の新聞には、二人の熱愛発覚の記事が大々的に掲載された。
ファクトリー中に噂は広まり、彼女だけが注目されることへの嫉妬からか、ロック・スターへの嫉妬からか、ウォーホルの態度は急変し、2人の間に歪みが生まれていった。落ち込むイーディの側にいたのは、気まぐれなアーティスト、ウォーホルとは全く違った魅力を持ったボブ・ディランだった。なぜスープ缶を描いただけの画が大金で売れるのかなどとウォーホルに対して批判的な彼は情熱的で、それまで彼女を取り巻いていた人々とは全く違う価値観を持っていた。イーディの心は揺さぶられ、二人は愛し合う。イーディはボブ・ディランをファクトリーに招待し、ウォーホルに引き合わせる。ロック・スターの登場にファクトリー全体が緊張に包まれた。カメラを回すウォーホル、それを見守るイーディ。そしてカメラの前でどこかトゲのある態度をとるディラン。ぎこちない空気が流れるなか、ファクトリーを去ろうとするが、イーディはそんな彼の態度を非難する。ディランはウォーホルの浮ついた世界に浸っている孤独なイーディを現実に連れ出そうとするが、泣き叫ぶイーディの身体は留まったままだった。
ウォーホルにも愛想をつかれ、ディランにも去られてしまったイーディ。
両親からの仕送りも止められた彼女の資金は底をつき、生活が崩れ始める。 ウォーホルはまるでイーディへのあてつけのように、イングリッド・スーパースターという女の子を映画に出演させ、前衛バンドのヴェルヴェット・アンダーグラウンドのプロデューサーとして新しいヴォーカルに、ニコという女性を置いた。ウォーホルとの関係は修復されないまま、イーディはますますドラッグにはまっていき、ついには自宅で火事を起こしてしまう。契約していたヴォーグ誌にも、ファクトリーにも見放され、身も心もぼろぼろになった彼女に手を差し伸べたのは、幼なじみのシドだった。ドラッグ漬けの生活からイーディを救おうとするシドがイーディに見せたのは、ニューヨークに来る前に撮影した1枚の写真だった。その写真の中には、夢と希望に溢れた画家志望の美しい女の子“イーディ”がいた。 イーディはニューヨークの街に飛び出し、どこへともなく、走りだしていった…。
監督:ジョージ・ヒッケンルーパー
出演:シエナ・ミラー/ガイ・ピアース/ヘイデン・クリステンセン/ジミー・ファロ/ショーン・ハトシー